ハードウェア技術者のスキルアップ日誌

某家電メーカーの技術者がスキルアップのために勉強したことを記録するブログです

5Gの規格を勉強して分かった、理解する上での前提知識と誤解していたこと

仕事で5Gを扱うことになり、いろいろな文献を読み漁って5Gの規格を調査しました。これだけ話題となっている技術で、すでにサービスが開始されようとしている段階で今更感があるのですが。。。

前置き:どのようにして調査したか

初めは英語の規格書にチャレンジするも、膨大すぎてどこが自分に関係があるところかすらよくわからない。

日本語のサイトを探してもニュース記事程度の簡単なものばかりで、技術的な詳細な解説は少ない。5Gはこれまでの移動通信システム規格と異なり、キャリヤや基地局、携帯端末メーカー以外の幅広い分野での活用が期待されているため、専門家でなくても理解できるように優しく書かれている記事が多い印象です。ですが、端末を開発するのは全く不十分。

docomoがジャーナルにて技術解説を公開してくれていますが、これまでの規格を知っていることが前提で書かれています。例えば、4Gからどう変わったかという差分の説明がメインです。今まで移動通信に携わっていない本当の初心者がこの説明だけを読んで理解するのはほぼ不可能だと思います。

www.nttdocomo.co.jp

今回、以下の文献をメインに4Gの規格に遡って勉強しました。

インプレス標準教科書シリーズ 5G教科書 ―LTE/ IoTから5Gまで―

インプレス標準教科書シリーズ 5G教科書 ―LTE/ IoTから5Gまで―

 

規格の調査を通して、5Gの規格を理解する上で、ある程度の前提知識が必要だと感じました。無線端末や基地局を扱う方にとっては当然の内容ですが、前述したようなニュース記事ではあまり触れられていないことをまとめておきたいと思います。

また、5Gについてよく言われていることで、個人的に誤解していたこともいくつかありました。これらについて正しくはどうなのかを書いていきたいと思います。

 

5Gの規格を理解するための前提知識

3GPP, ITU-R

5Gの規格を調べていると3GPPITU-Rという単語がよく出てきます。ともに規格団体のようで、それぞれで5Gの規格をリリースするスケジュールになっており、関係性がわかりませんでした。

図3 3GPPリリース15と2019年末のリリース16のロードマップ 引用:https://sgforum.impress.co.jp/article/4880

Wikipediaで調べると、3GPPは移動通信システムの標準化作業を行うプロジェクト、ITU-Rは電気通信分野における国際連合の専門機関である国際電気通信連合(ITU: International Telecommunication Union)の無線通信部門とのことです。

ITU-Rは各国の代表が集まった国際機関であるのに対し、3GPPは企業が集まった団体です。移動通信の国際規格はITU-Rで決定するのですが、ITU-Rは自ら規格を作成せず、世界から案を募集しています。3GPPはこの提案書を作成する目的で結成されています。

ですのでスケジュールとしては3GPPが仕様案をリリースし、それをITU-Rが確認して仕様策定という流れとなります。正式仕様はITU-Rがリリースするものとなりますが、技術者としては3GPPの動きを注目する必要がありますね。

3GPPで検討された規格はリリース○○という形でリリースされます。リリース15以降が5Gの規格に相当します。一方、ITU-Rで策定する5G相当の規格はIMT-2020という名称です。

 参考サイト
https://sgforum.impress.co.jp/article/4880
http://www.rf-world.jp/bn/RFW37/samples/p079-080.pdf

 

3GPPのリリースと移動通信規格の世代との関係

3GPPは1,2年おきにバージョンアップした機能をリリースしています。一方で、よく耳にする"3G", "4G"という呼び方は移動通信の機能が大きく変わるタイミングで切り替わっており、3GPPの複数のリリースを指しています。具体的には以下のようになります。

f:id:masashi_k:20200321000538p:plain


③リリース15から5Gの規格を規定

②でも少し触れましたが、3GPPのリリース15から5Gの規格が規定されています。このリリース15には従来のLTE/LTE-Advancedと互換性がある高度化LTEと、これまでとは全く異なる周波数帯を用いる新たな無線技術New Radio(NR)の大きく2つの規格が含まれています。NRは従来のLTE/LTE-Advancedとは互換性がありません。

通常、"5G"と言うときに指しているのはNew Radioの技術だと思いますが、正式には高度化LTEも含めてリリース15以降で規定されている移動通信システムを5Gと呼びます。


引用:https://www.edn.com/what-is-5g-nr/

 

移動体通信システムの構成

移動体通信システムは端末と基地局が電波で接続されており、さらに交換局を通してインターネットや別の端末に接続されるという構成から成っています。

「携帯電話 基地局 インターネット」の画像検索結果引用:https://time-space.kddi.com/au-kddi/20190514/2627

今となっては当然のことですが、当時はこの構成が頭に入ってなく、この構成を意識することで文献の内容がよく理解できるようになったことがあります。

例えば、スタンドアローン(SA)方式、ノンスタンドアローン(NSA)方式。
基地局、交換局(コアネットワーク)は4G, 5G(NR)で別のものが必要となるので、早期にサービスを提供するために4Gの設備を流用して運用する方式(NSA)が取られます。


引用:https://www.soumu.go.jp/main_content/000593247.pdf

 

5Gについて誤解していたこと

①導入スケジュール

 5Gの3つの特徴は「超高速・大容量」、「低遅延」、「同時多接続」と言われていますが、5Gが導入されてからすぐにこれらすべての特徴が利用できるわけではありません。ニュース記事ではよくこれらが同列で扱われているため、誤解を招いていると思っています。

5Gの検討スケジュールは以下のように2ステップとなっています。
 フェーズ1:”超高速・大容量”を中心に2020年に実現する5Gの基本仕様の策定
 フェーズ2:2020年以降の実現を念頭に、”低遅延”、”多接続”を含む5Gのフルスペックの策定

5Gのロードマップ。2018年6月に、5Gのフェーズ1の仕様策定が完了する見込みだ(クリックで拡大) 出典:IHS Markit Technology引用:IHS Markit Technology

 

上図ではリリース16は19年12月に策定完了となっていますが、実際は3ヶ月遅れて2020年3月に完了予定です。

20年3月にdocomoが5Gのサービスをスタートするそうですが、そのサービスは「超高速・大容量」ということですね。「低遅延」、「同時多接続」が利用できるようになるのは2022年以降と言われています。これは5Gの導入当初は、先ほど述べたノンスタンドアローン方式でサービスが提供されることに起因します。5Gのフルスペックを実現するには交換局(コアネットワーク)も5G用のものにする必要があります。

 

②ローカル5G

5Gに関するニュース記事ではローカル5Gというワードもよく目にします。当初このワードを見たときに、LoRaのように自営で基地局を設置し、専用のネットワークを構築できると思ってしまいました。

しかし、ローカル5GはLoRaと異なり、基地局を立てて自営網を構築するにも無線局免許を取得する必要があります。LoRaはアンライセンスバンドを使用するため、免許不要でしたが、5Gはそうではないため、自営網だとしても免許が必要ということですね。

また、ローカル5Gの導入メリットについても、誤解していた点がありました。LoRaの場合、自拠点内に端末を多数設置する場合、端末1台ごとにサービス利用料を払うよりは自前で通信網を作る方がランニングコストがなくなるため、通信コストを削減できるというメリットがあったと思います。

しかし、ローカル5Gに関しては別のところに導入する意義があります。

5Gのスケジュールのところに記載しましたが、5Gのフルサービスが提供されるのは2022年以降となる見込みです。また、キャリアが設備を設置するのは利用者が多い都市部が最初で、人口が少ない地方は導入がさらに後になる可能性が高いです。

一方、産業界において、低遅延など5Gの特徴を生かしたい工場や建設現場などは地方にあることが多く、キャリアによる5Gのサービス導入を待つと非常に時間がかかってしまします。サービスを利用したい企業自らが自拠点に通信網を早期に構築し、5Gの特徴を生かしてビジネスを展開できる方法がローカル5Gです。

 

まとめ

5Gの規格を勉強する中で、前提知識として知っておけば理解が速いと思ったこと、勉強前に誤解をしてしまっていたことをまとめてきました。

移動体無線通信の初心者が1から規格を勉強するのはなかなかハードルが高かったですが、同様のことをされる方がこの記事によって少しでもスムーズに規格を習得できればと思います。